医学部入試 男女別合格率を5年分調べよう!!の巻
2018年。複数の大学において医学部入試で不正が行われていたことが発覚しました。
どの大学がどのような不正をしたのかもう全然覚えていなかったり、続報までは追いかけていなかったりする方も多いのではないでしょうか。
そのあたりのことはウィキペディアに任せます。
最近のウィキペディアは各新聞社の記事リンク付きでニュースが追えてすごい。
私がこのニュースを聞いて感じたのは、「私はずっと前から知っていたのに、それをおかしいと思うことも、何か行動することもできなかった」という屈辱と後悔でした。
“ずっと前”とは私が高校生のときのこと。有名予備校の医学部コースや医学部専門塾に在籍する同級生が複数いたため、大学受験直前のナーバスな雰囲気の中、医学部入試に関する噂が聞こえてくることもありました。
「○○大は女子の数絞ってるらしい」
「××大と△△大は浪人生があまり受からない」
そのような会話はすぐに終わるものではなく、最終的には「女に生まれた私たちは浪人すれば合格可能性が下がる一方である」といった諦めの言葉まで続きました。
このときの私たちは決して怒りに満ちてはいませんでした。
約10年前、高校生だった私たちは社会に適合しようと必死でした。
女性であるだけで可能性が狭められてしまうことを、それまでの人生を通して、当然のものとして受け入れてしまっていました。そう思わされてしまうような社会でした。
大学受験の構造そのものに差別的な要素があることが視界に入っているはずなのに、むしろその競争で勝ち抜くこと・勝ち抜く能力がある人間にだけ価値があると思い込まされていました。
性差別が個人の問題に見えてしまっていた私たちも、まあそこそこの大人になり、さらなる性差別にもぶつかり、やっとこれが社会全体で乗り越えていくべき問題であることに気がつきはじめました。
高校時代の自分を悔やむように医学部不正問題のニュースを読んでいるわけです。*1
例えば以下の記事。
医学部男女の合格率、8割で男子が高かった 東京医科大問題で文科省調査 - 子育て世代がつながる | 東京すくすく ― 東京新聞
これは2013~2018年度の男女別合格率を文科省が調査した際のデータが主眼となる記事ですが、注目していただきたいのは末尾にある医学部予備校代表のコメントです。
◇医学部受験予備校「プロメディカス」の武林輝代表の話
不正をしたか問われて正直に答える大学があるのか疑問。不正を行ったという回答がないなら、なぜ男子の合格率が高い状態が続いているのか、納得できる説明がほしい。調査では、一般入試と、地域枠や指定校などさまざまな条件で行われる推薦入試の結果を一緒に計算しているため、推薦で女子が多く合格した場合に一般入試で男子有利に操作されても数字が相殺され、女子の不利な扱いの実態が埋もれてしまう可能性がある。
めっちゃ聞いたことある~~~~
推薦入試で地元のかわいい女の子をたくさん合格させてその土地に男の医者を定着させようとする地方医大の噂、進学した友人から聞いたことある~~~~
もちろんこれは学生たちが勝手に、まことしやかに噂しているだけのことで、真偽は定かではないのですが、少なくともそんな風説が流れるような環境ではあるわけです。
もしかして、調査すべきは一般入試のみの合格率なのではないでしょうか。
そもそも推薦入試は医学部に限らず、志望理由書・面接(つまり人柄)も加味される入試形態であり、「学力だけでのし上がれるはずなのに…」との印象は薄いものです。
学力一本ガチンコ勝負!性別で判断なんてもってのほか!であるはずの一般入試だけのデータを見てみたい!!*2
そう思った矢先、文科省からこんな宣言が。
81医学科の男女別合格率、毎年公表へ 文科省が調査:朝日新聞デジタル
やったぜ!!!
そして、結果出てきたデータがこちら。
『医学部医学科の入学者選抜における男女別合格率について(平成31年度・令和2年度入学者選抜)』
一般入試と推薦入試を合わせた数字しか見当たらないですね。
一次試験と二次試験も合算されています。
正直物足りません。
がっかり……。
なぜこんな態度になっているかと問われれば、なんと!もうすでに私の手元には一般入試のみ・一次二次別のデータが揃っているのです!!
というわけで、私が趣味で収集した、全国医学部医学科男女別合格率のデータをお見せします。
いずれも大学の公式ホームページから採取したデータであり、各大学の意思で公表されている範囲のものになります。
よって、男女別のデータを掲載していない大学・入学者数のみ掲載している大学など、内容にかなりバラつきがあります。
基本ルール:
①一般入試(前期後期とある場合は前期試験のみ)のデータを5年分採集。*3
②国公立で足切り(一次試験不合格)があった場合は足切り後のデータを採集。私立はできるだけ一次二次両方を採集。*4
③受験者数÷合格者数=合格率とする。*5
人力で収集したデータですので、(友人の協力でチェックを重ねたとはいえ)ミスの残るところや見落としなど見受けられるかと思いますが、どうかご容赦ください。
それではご覧ください。
上のデータでは、合格率が女>男になっている年度のF(私立大学の一部はF,G)列をイエローに色付けしています。
イエローの割合が50%未満であるのは火を見るより明らかですね。
実際に、上記のニュースソースにある通り、文部科学省の調査によると81校2013-2018年度の男女別合格率は、約8割の大学において男子が上回っていたそうです。全体の合格率は男子11.25%女子9.55%。
このことは、女が男より劣っていることを示しているでしょうか?
私はそうは思いません。
文部科学省の調査で不正入試が判明した10校(男女に関しては4校)だけが不正をやっていたとは思えません。
先述のとおり、もっとたくさんの大学に関して不正の噂が飛び交っている高校時代を過ごしたからでもありますが、それ以上に、この世界にはさまざまなジェンダーバイアスが存在しているからです。
この世界には性差別があるけど、筆記試験においてはそうじゃない!
という神話は、残念ながら2018年に裏切られてしまいました。
でも、すべての大学で毎年合格率が女<男になっているわけではないことも、このスプレッドシートは証明してくれました。国立大学から抜粋すれば、千葉大学・愛媛大学・琉球大学において、5年中3年以上は合格率が女>男の割合になっています。*6
たったの3校ですが、そのような大学にこそ注目し、この世界に希望を託してみてもいいのかもしれませんね。
真に公正な試験がすべての入学試験において実現し、その手続を信じられる時が一刻も早く訪れることを切に願います。
編集後記(感想)も読んでいただけると喜びます。
*1:医学部の不正入試が医学部受験界隈では「当然のこと」とされていたことを主題とする記事を載せておきますね。東京医大の入試点数操作「なぜ今さら?」と予備校関係者 「他大学でも40年以上前から行われている」 | キャリコネニュース
*2:これは「世間一般のイメージでは」「理想を言うと」のお話です。もちろん、多くの医学部入試では面接試験が点数化されており、点数という形でなくとも、募集要項に「面接の評価が著しく低い場合、総合得点にかかわらず不合格とする」なんて明記してあることも。面接試験で得点調整すればどうにでも不正ができてしまう問題についてはこちらの記事を一読ください。朝日新聞デジタル:入試面接0点、なぜ 今年医学部不合格「採点基準は」 - 受験ニュース - 2013年度大学入試センター試験 - 教育
*3:一般入試に絞る理由は前述の通り。
前期に絞る理由は、後期試験を実施する大学が2021年度入試では国公立18/50・私立10/31校(全体の約35%)と少なく、スプレッドシートの枠を新たに作るのが面倒だったからです。あと私立の入試方式は大学によってかなり幅があるため、「それは前期ではないのでは?」というデータを掲載しているかもしれません。
5年分なのは、国公立の公表データが5年分までのところが多かったのと、気力の問題です。
*4:国公立の足切りはおおむねセンター試験の点数で判断されており、さすがにそこで性差別が行われる余地はないと考えたため。
私立の一次試験内容は個別学力検査であり、国公立の二次試験に相当すると思われるためデータに含みました。
*5:試験結果データの項目は、志願者数・受験者数・合格者数・入学者数の4種類に大きく分けられます。志願者数→受験者数や合格者数→入学者数での変化は、推薦入試で一般入試の前に合格が決まったケースや併願の都合など、多岐にわたる原因が考えられるため、受験者数と合格者数を採用しました。
*6:公表しているデータが5年分に満たない大学は残念ながら選外としています。千葉大学は地域枠込みの数値なのでここに入れるか悩んだのですが……1つでも多くの希望が欲しくて入れました……
公立大学は該当校なし、東京女子医科大学を除いた私立大学では関西医科大学と久留米大学が該当するのですが、その2校は一次試験において女子の合格者数を制限している可能性が感じられる数値であったため、本文には記載していません。