Dawn of the Kids

『キン肉マンⅡ世』世代のブログ

『テリー・ザ・キッドの夜明け』前編

今回はキン肉マンシリーズをほぼ知らない友人たちに無理やり『テリー・ザ・キッドの夜明け』前編を読ませて、その言葉を引用しながら感想を述べていきます。

「浜場さんは切り株抜きを”男らしさ”とするテリーマンの主張をとりあえず受け入れた上で話してるけど、そもそも切り株抜きと”男らしさ”は関係ないと思う」との声に
「それを受け入れないと『キン肉マンⅡ世』は読めないよ、ずっとこんな話が続くんだから…」と返すしかなかったからです。
少なくとも究極の超人タッグ編はずっとこんな話が続くわけですが、それを完全に受け入れてしまった私にはもう客観的な考察などできないのです。冷静さも的確さも判断力も無い感想しか書けない……

『キン肉マンⅡ世』特別読切 『テリー・ザ・キッドの夜明け』前編 - キン肉マン - コミック|週プレNEWS[週刊プレイボーイのニュースサイト]からモリモリ画像を引用させていただいてお送りします。


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四葉のクローバーの夜明け』じゃない?
みんなはどう思う?

「肩の星って光るんや…」
そうだね、そもそもそういうところから意味がわからないよね、変なもの読ませてごめんね……
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ゆでたまごキン肉マン』22巻, 集英社, pp.122-123

両肩のスター・エンブレムは光るし取れるし自由意志がありそうだし強化ガラスより硬いよ


いきなりオチに行ってしまいましたが、順を追って見ていきます。
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テリーマンの過去の栄光が強調されるのめちゃめちゃ怖くないですか?
例のブチ切れビンタ事件って「キッドに自分の過去をけなされて激昂した」という読み取りができなくもないじゃないですか。違うと信じていますが、テリーマンが自分の過去に誇りを持てば持つほどそのへんが危うくなるので、自覚しておいてほしいところです。(誰に言ってるの?)
トロフィーとかベルトとか飾る気持ちはわかるし、キン肉マンとタッグトロフィーを掲げてる写真を横に並べるのもわかるんです。でもキン肉マンがトロフィー持って嬉しそうにしてる後ろで拍手してる写真や胴上げしてる写真はわからないです。何を思ってそんなものを……
キン肉マンが大きいトロフィーもらう方が嬉しかったって本気で思ってるのか?
そう思い込みたかったのかな? キン肉マンという輝かしい人生を送った男の横で何も成し遂げなかった自分を肯定するためにはそうするしかないから? 年老いて体が思い通りには動かなくなっていく焦りを、過去に思いを馳せて美化することでしか紛らわせないから?
テリーマンの中年の危機問題がテリー・ザ・キッドに降りかかるのが『キン肉マンⅡ世』の常ですが、それをまざまざと見せつけないでほしいという気持ちがあります。だってつらいから。
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キッドの方を見て話せ
子どもがケガして帰ってきてんだぞ
おい
こっちを見ろ

いや、わかりますよ、わざわざキッドの表情を見なくたって、話を聞かなくたって、年頃の男の子、しかも超人レスリングをやっている子だからケンカに違いないとわかる”偉大な父親”像、わかりますよ。わかった上でふざけんなクソボケと思っているだけで……
ナツ子さんはたぶん最初は心配していて、でも2週間続いてさすがに呆れてるんだろうなとわかりますが、彼女の口ぶりからして、テリーマンはこの日まで見てないと思うんですよ。2週間も、一度も、キッドをちゃんと見ようとしなかった。
男の子は放っておいても勝手に育つと思っている節がありますね。そういうのを有害な”男らしさ”って言うんですよ。男の子だからケンカしてケガして帰ってくるのが当たり前と思ってるのも、それを良いことだと思ってるのも、間違いなく有害です。
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ゆでたまごキン肉マンⅡ世』14巻, 2001年, 集英社, p.89

さすがオリンピックに出場しても見に来てくれないと思われていただけのことはありますね。
「まさかここにいるわけが…」じゃないんだよ、普通は来るんだよ、オリンピックなんだから……

テリーマン育児放棄しているのは20年前からわかっているのでこのくらいにしておきましょう。
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「すごいクソガキじゃん」
すごいクソガキだしすごいよく喋るな、テリー・ザ・キッドがこんなに喋るとこ初めて見たよ、「お金ちょうだい!」までの流れるような長台詞すごいな、本当に何なんだ、頭が良いのか性格が悪いのかどっちなんだ、すごいクソガキだな!?
そういえば例のブチ切れビンタ事件のときのキッドもよく喋るな~という印象なのですが、前後関係はどうなんでしょう。ビンタされてからあんまり喋らない子になってたら嫌だな……
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ヒィッ……
斧でぶん殴られるかと思った……

「私もキッドの横に斧を振り下ろすのかと思った」
やっぱそうだよね!? 私だけじゃないよね???*1

ブチ切れビンタ事件のせいでテリーマンのことを信用できなくなってしまいました。

ていうか切り株抜きって何?
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斧持ったパパに言われちゃあ「わかったよう…」としか返せないですね。
斧持って子どもと会話しないでほしい。
あと自分が保守的な気風なだけなのをテキサスのせいにしないでほしい。
テリー一族の伝統であること、つまりレスリングの上達のために代々やっているであろうことをテキサスに絡められるとよくわかんないじゃないですか。それとこれとは別でしょう。超人レスリング関連の本がたくさんある本棚にHOLY BIBLEを入れるところからもその素朴な信仰が窺えます。事実として神が105柱いる多神教キン肉マン世界におけるHOLY BIBLEが何を物語るのか私にはわかりませんが、ゆでたまご先生にとって敬虔・実直・頑なさが横並びのイメージであることは何となくわかります。
テリーマンってもっとこう、狂犬だったじゃん…とは思いますが……
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ゆでたまごキン肉マン』19巻, 集英社, p.44

このへんの記憶はテリーマンの脳からは消え去ってしまったのでしょうか。

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「なんぼほど切り株抜くねん!」
「そのペースで毎日やったら切り株なくなるやろ!」
「これを一族代々……」
牧場の整地って聞いてたのに開拓してない?
「西部開拓時代からずっと……農地を広げるために……」
焼畑農業みたいなこと?

そういえば劇場版の『大暴れ!正義超人』(1984年)で契約しようとしてた土地って何だったんだろう、アニメでは一族で土地を受け継いでない設定なのかな、テキサスに生まれ育って土地持ってないの心配になるな……
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テリーマン vs. 正論じゃん
「伝統」の一言ですべて押し通せると思ってるその伝統信仰はどこから来てるんだろう?
その伝統がもう古くさくて非効率的だって子どもに言われてるんだぞ、これからの未来を担う子どもたちに……
「男は狩猟、女は採集をしていた古代より…」みたいなこと言って男女差別を押し通す縄文時代の人と同レベルじゃん、同レベルっていうか同じなんだろうな、こういう原始的なことをやっている間は男の腕力が必要な世界に住んでいられるから”男らしく”生き続けることができるもんね?
ハ~~
テリー・ザ・キッドは巻き込まないでくれ……
非合理の塊ことテリーマン、あまりの非合理にジャスティスマンさえ音を上げたテリーマン……
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ゆでたまごキン肉マンⅡ世 究極の超人タッグ編』15巻, 2008年, 集英社, p.17

そんなテリーマンばかり見ているので『キン肉マンⅡ世』あるある偏見「アメリカ超人は合理的」に全然共感できないのですが……

それはさておき暴留渓(ボルケ~ノ)の登場です。
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「この切り株みたいな頭の人はなんで煙出してるの?」
察してくれ…! ボルケーノという名前から……!

というか切り株?に?見える??
「切り株いっぱい抜いてたから、切り株のお化けが出てきたのかと…」
切り株の祟りが……
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先祖代々テリー一族に抜かれてきた恨みが理由で……

お遊びはここまでです。
父親の自己正当化のために切り株を抜かされるキッドも相当アレですが、どうやら父親のライバルの息子を倒すために育てられたらしい暴留渓のオリジンも恐ろしげです。
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ゲイシャガール~~ッ!?」
ゲイシャガールはダメです。
悪役の悪い台詞として描いてるにしてもダメです。2009年でもギリギリダメです。
ここまで暴留渓はただ純粋に柔術が強いだけで悪いことはしていないので、無理やり悪役要素を乗せようとしたのかもしれませんが、それでもダメです。
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「丸太刺さってますけど…」
丸太刺さってハチャメチャに血が出てるのにかっこつけてるのどういうこと?
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ゆでたまごキン肉マンⅡ世』3巻, 1999年, 集英社, p.59

この時は馬から落ちてなかったからかっこつけてるのわかるけど……
いややっぱダメだな、こんな不思議なポーズでドヤ顔してるくらいなら落馬してる方がマシだわ

自分の超人レスリングが正しいと信じてても丸太は避けなよ
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テキサスは地獄
この世は無常、テキサスは地獄……

キッドくんほんとテキサスから出てきてくれてよかった、大阪に定住しよう……
辛かったらいつでも頼ってね……
ナツ子さんがテキサスに持ってきていた『吉本新喜劇 ギャグ100連発』等のVHSを何度も繰り返し見せられていたキッドは80年代のギャグに造詣が深いので、ある日スポーツコーナーでゲスト出演した『せやねん!』にてトミーズ雅の目に留まり、14歳の少年から発せられる「アホちゃいまんねんパーでんねん」等の往年ギャグで関西の中高年をメロメロにすることは知っているし、その未来があるから私は『キン肉マンⅡ世』を読むんだ……たとえそれが私にしか見えていない未来であり、この文章が関西の人間にしか理解できない内容になっているのだとしても……

キン肉マン世界のテキサスがなぜここまで地獄になってしまったのかはわかりかねますが、現実世界の”男らしさ”と照らし合わせることはできます。

一九七六年、社会心理学者のロバート・ブラノンとデボラ・デイビッド*2は、男性の性役割に関する、すなわち伝統的な男性性に関する基本的な構成要素を四つにまとめた。ひとつ目は「意気地なしはダメ」。二つ目は「大物感」。上に見られたいという欲求と、男性の成功とステータスを論じている。三つ目の「動じない強さ」では、とりわけ危機的状況における男性のたくましさと自信と自立心を説明している。四つ目の「ぶちのめせ」では、男性の振る舞いにおける暴力性、攻撃性、大胆さを論じている。
グレイソン・ペリー, 小磯洋光(訳)『男らしさの終焉』フィルムアート社, 2019年, p.20

先ほどの丸太は③動じない強さを示すエピソードということで良いでしょう。丸太が刺さる方が”男らしい”ってわけです。危機的状況にあっても自信があるから動じない、その”男らしさ”の証ですから。
「ナメられたら一生ナメられ続け 誰も助けてくれやしない」という圧倒的に理不尽な世界観は言わずもがな”男らしさ”を信仰するがゆえのものですね。①意気地なしは蔑まれる世界であり、②大物になるか大物に踏みにじられるかの両極端の世界です。この世は地獄。
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そんな最低最悪の”男らしさ”競争に勝ち上がり、男が男に男を見せた結果得られるのが「幸せな勝利」、④ぶちのめせ!というわけですね。
何の意味があるんだ?

男同士助け合って生きていこうって『キン肉マン』は教えてくれたんじゃなかったの?
男だって泣いていいし助けられていいし誰も踏みにじられるべきでないって泣きながら戦ってくれたのがキン肉マンでしょう?

何を勘違いしてるんだ
どうしてそんな時代遅れの”男らしさ”をテリー・ザ・キッドは強要されなくちゃいけないんだ
その幸せに愛はあるのか

テリーマンは『キン肉マン』を読んだ方がいいよ、”男らしさ”信仰から抜け出すきっかけになると思う、自分の過去についての認識も改められるし……

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少なくとも自分の子どもが晩ごはんも食べずに朝まで切り株抜いてるの放置できる精神性はヤバいからカウンセリングかグループセラピーに行ってほしい、心に愛が無いのにスーパーヒーローぶらないでほしい

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もう何もわからない、テリー・ザ・キッドの夜は物理的には明けましたが、精神的には暗闇ではないですか、しおれかかった四つ葉のクローバーはキッドに救われたので『四つ葉のクローバーの夜明け』です

「なんで最後クローバー出てきたん?」
さあ……






これ四つ葉のクローバーにちなんで「テキサス・クローバー・ホールド」ってことなんですか!?
技の形だけで十分クローバーなのわかってますけど!???!?!!?


おわり

*1:浜場はカジュアルに殴るタイプの親に育てられたし、青字の人も親に包丁を突きつけられたことがある

*2:明らかに孫引きとなってしまっていますが、ここで参照されている『The Forty-Nine Percent Majority: The Male Sex Role』は邦訳が無く、原書にあたる時間的余裕のない生活を送っています。お許しください。